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その十一 「詩の教室」 佐藤 浩


 

 

 

 

 

 

子どもたちは詩を、私たちは「青い窓」のリーフレットを、それぞれポストに投函し、

郵便物だけが取り持つ対話。そんな対話に物足りなさを感じていた私たちは、

創刊十周年を迎えた昭和四十三年、子どもたちを対象に詩の教室を開くこととした。

私自身も編集者として、いつも子どもたちの生き生きとした生活にふれていなければ

ならないのだ。

 

教室は私の自宅の一室を充てた。毎月一回、第二土曜日の午後三時から四時までの

一時間。集まって来る子どもたちは平均十四、五人であった。

この教室は全員が生徒で、全員が先生だ。だから、みんながみんなから学ぶのだ。

詩を学ぶのではなく、詩を通して生き方を考えるのだ。そして、正しい答えが頭数

以上あるものを勉強し、正しい答えが一つしか無いものは勉強しないことにしている。

計画を持たず、一瞬の出会いが勉強の生き生きとした方向を決めてくれるのもこの

教室の特徴だ。

 

勉強は前半が詩の鑑賞、後半が言葉遊びとなっている。

詩の鑑賞は前月のリーフレットに掲載された詩の中から一・二篇を選び、じっくり

読みこんで、その子の体験と対比させる。すると、詩に描かれている情況の観察が

細やかとなり、心の動きにも目が届くようになる。そこで、それぞれの感想を出し

合うのだが、私は司会者であり、一発言者となる。そして、結論は出さないのだ。

 

言葉遊びは三十種ほどあるが、大別して三群に整理することが出来る。

一は、在来からあったもの。

二は、それをアレンジしたもの。

そして三は、新たに考案したものである。

二と三を合わせると八十八パーセントになるので、私たちは総称して「青い窓のゲーム」

と呼んでいるが、そのいくつかをあげてみよう。

 

私は「尻とり」があるのだから、当然「頭とり」があってもいいと思った。

そこで「頭とりゲームを考えたのだが、例えば「窓」を出題しようとしたら、

「まが付く、どが付く、なあに」と問いかける。すると解答者が「真っ赤な、ドレス」

とか、「丸い、ドーナツ」と答えるゲームである。「毎日、泥んこ」などの傑作も

生まれて、子どもたちの好きなゲームの一つである。

 

子どもたちにもっとも人気のあるのが「住所ゲーム」である。

これはすべてのものを「県、市、町」の三点でその特徴を捉え、住人にふさわしい

住所を作ってやる遊びで、応用範囲も広い。

例えば、赤ずきんちゃんなら「森県、おばあちゃん市、おおかみ町」となり、

つくしだったら「春風県、原っぱ市、背くらべ町」いうことになる。

もし蕗のとうだったら、つくしの町だけを変えて「緑町」とすればいい。

かなり微妙な表現も出来るはずだ。

 

こんなエピソードもあった。

「カラス瓜のランプ」という詩があって、みんなで鑑賞した。作者の父親が子ども

時代を思い出して、カラス瓜のランプを作ったが、そのランプの目鼻立ちが父親の

子どもの頃の顔に見えたというほほえましい内容であった。

 

最後にこの詩を子どもに読んでもらったところ「カラスのランプ売り」と間違えて

しまった。私はピカッと光を感じた。そうだ、ゲームはリレー童話にしようと、

とっさに決めた。そして「カラスのランプ売り」というリレー童話が始まった。

 

「ランプ売りのカラスがランプをくわえて、八幡様の森に集まって来ました。

だから西の空が真っ赤です」と最初の子が言った。

「カラスが一羽、ランプをくわえて、佐藤先生にランプを買って下さいときました。

先生はランプを買ってやりました」と次の子が言った。

そして、同じ話が次々とリレーされ、最後の子は次のように結んだ。

「最後のカラスが佐藤先生にランプを買ってもらったら、八幡様の空は夕やけが

きえて夜になりました。おわり」。

 

私はこのみごとな童話に胸を熱くし、子どもたちからもらったランプで、私の心は

夕やけのように幸せにみちた。

この詩の教室を支えてくれたのは詩人の後藤基宗子さんであった。十年間、私は一度も

その動機をお聞きしたことは無いが、いつしかかげがえのないパートナーとして定着

してしまっている。そして、そんな詩の教室で私は、自分の視力障害を感じたことが無い。

 

(平成三年 青い窓六月号に掲載)

 

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文中で佐藤が述べた詩の教室の特徴は『詩の教室の四本柱』

としてまとめられています。

 

・みんなが生徒、だからみんな先生

・正しい答えが一つしかないものは学ばない

・計画は立てない。新鮮な出会いが次の方向を決める

・詩を学ぶのではなく、生き方を考える

 

この四本柱は、青い窓の在り方、理念でもあります。

カラスのランプ売りのエピソードのように、詩の教室では

参加者の自由な発想を大事にしています。

多様な考えから新たな発見が生まれ世界が広がることを、

言葉遊びを通じて理解していくのです。

 詩の教室は佐藤の勇退後に一度閉じられ、平成二十六年五月に、

詩人の高橋静恵氏の発案と協力を頂き「詩のひろば」として

再スタートしました。

後藤氏、高橋氏は、佐藤のよき理解者であり、子どもたちに

詩の楽しさを伝えて下さいました。

ここに心からお礼を申し上げます。